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科学的多元主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

科学的多元主義(かがくてきたげんしゅぎ、英語: scientific pluralism)とは、科学哲学における立場の一つで、科学的方法と主題についてのさまざまな提案された統一を退けるものである。科学的多元主義者は、科学は次のうちの一つ以上の仕方で統一されていない、と考える。すなわち、その主題の形而上学、科学的知識の認識論、あるいは用いられるべき研究方法とモデルである。一部の多元主義者は、科学の本性ゆえに多元主義が必要だと考える。他の論者は、科学諸分野はすでに実践において多様なのだから、特定の統一が経験的に証明されるまでは、この多様性が誤りだと考える理由はない、と述べる。最後に、たとえ理論上は統一が可能だとしても、規範的理由から多元主義が認められるべきだ、と考える論者もいる。

歴史

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1920年代から1930年代にかけてのウィーン学団による論理実証主義の発展以来、統一科学の理論は、すべての科学的探究が共通の枠組みを共有する、と措定してきた。これらの理論の最も強力なバージョンでは、すべての特殊科学は物理学に還元可能であるはずである。それゆえ、現在の実践では人間の知識と技術の発展の限界によってそうではないとしても、すべての科学は理論上、一つの共有された方法論に従い、共有された専門用語で記述されうる、というのである[1][注釈 1]。ウィーン学団の特定の理論はもはや一般には支持されていないが、より最近の哲学者によって提案されたさまざまな統一がある[3][4]。

実証主義の興隆のあいだもより初期の多元主義的な科学の構想は存続していたが、現代的な科学的多元主義の構想は1970年代に現れ始めた[5]。1978年の科学哲学会での講演で、スタンフォード大学教授パトリック・サップスは、科学における彼が「言語の還元、主題の還元、方法の還元」と呼ぶものに反対して論じた[6]。彼はこの講演を、1938年に出版された『国際統一科学百科事典』の第一巻の考えへの応答として位置づけた。彼は、それ以来、科学諸分野の主題はより分化し、言語と方法論におけるより大きな乖離を伴い、百科事典のウィーン学団の著者たちが措定した統一に向かう動きを示していない、と論じた[7]。科学的多元主義を支持する、のちに「スタンフォード学派」と呼ばれるようになったものの他のメンバーには、ナンシー・カートライト、ジョン・デュプレ、ピーター・ギャリソン、イアン・ハッキングがいた[8]。2000年代には、ミネソタ大学の科学哲学センターでの2002年のワークショップに続いて「ミネソタ学派」が現れ、スティーヴン・ケラート、ヘレン・ロンギノ(英語版)、C・ケネス・ウォーターズ(英語版)を含んでいた。これらの著者は、より初期の多元主義者の議論の一部を批判する一方、多元主義は科学への標準的アプローチとして受け入れられるべきだ、とも論じた[9][10]。これらのより新しい多元主義者はまた、メタ科学的・メタ哲学的関心を含め、科学の統一の提唱者と伝統的に争われてきた領域の外の領域にも取り組もうとした[11]。

2010年代までに、科学的多元主義への支持は、科学哲学者のあいだで科学の統一への支持よりも一般的な立場となっていた[3][12][13]。

多元主義の諸変種

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スタンフォード学派の哲学者ナンシー・カートライトは科学的多元主義を支持して著述してきた。

科学的多元主義者は、科学のどの側面が統一されていないと考えるかに関して多様である。科学の主題内に形而上学的差異があると信じる多元主義者は、科学の統一は本来的に不可能であると考える。多元主義者ナンシー・カートライトの言葉では、彼らは「すべての事実は一つの壮大な図式に属さなければならない」という「原理主義的教説」を退ける[14]。これらの差異の措定された影響は、提案される特定の形而上学的差異に依存する。たとえば還元主義の反対者は、社会学や心理学のような科学は、互いに還元できない異なるレベルの事実を含むので、物理学と完全に統一されることはできない、と述べる。しかしこのモデルでは、各分野の内部には統一がありうる。これに対して、一部の多元主義者は、複数のタイプの因果性がありうると措定する。それゆえ物理学のような分野は、決定論的な振る舞いをもつ存在者と、確率的な振る舞いをもつ存在者を理解するために異なる方法を必要とするかもしれない、というのである[5][10]。

多元主義のもう一つの焦点は科学の認識論にある。一部の多元主義者は、異なる科学諸分野の素材を関係づけることの困難に焦点を当てる。たとえ還元主義的形而上学が理論上受け入れられるとしても、必要とされる情報量を考えれば、たとえば大規模な社会的振る舞いを亜原子粒子の振る舞いへの参照によって説明することは、実践上不可能かもしれない[5]。他の多元主義者は、認識論的レベルでのそうした説明の可能性を退けはしないが、異なる分野で(時には一つの分野の内部でも)実際に用いられる多様な研究方法と理論的モデルを考えれば、それらにまたがる統一の経験的証拠を提供する立証責任は統一論者の側にある、と述べる。その証拠がない場合、これらの多元主義者は、科学者が統一の理論を特別に考慮することなく、自身の仕事に最も効果的と思われる方法とモデルを用いるほうが理にかなっている、と考える[5][9][15]。

科学的多元主義の一部の提唱者は、それが社会的・倫理的・政治的理由から採用されるべきだ、と論じる。たとえばサンドラ・ハーディングは、統一された科学のモデルは必ず西洋文化にもとづくものを意味し、これが「他の諸文化の資源と権利の破壊」につながり、「極度に権威主義的なグローバル社会」のみが実際にすべての文化にまたがる単一の科学観を押しつけることができる、と述べる[16]。一部の多元主義者は、多元主義がこれまで周縁化されてきた集団が参加するより多くの機会と、科学的異論を表明するより多くの機会を提供することを期待する[5]。

注

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  1. ↑ J・A・フォーダーは、科学の統一の理論一般を批判しつつ、その最も強力で最も還元主義的なバージョンは、科学哲学者のあいだよりも、非哲学者の科学の統一の理解においてより一般的である、と指摘している[2]。

脚注

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  1. ↑ Fodor 1974, pp. 97–98.
  2. ↑ Fodor 1974, p. 114n2.
  3. 1 2 Ruphy 2016, pp. xi–xii.
  4. ↑ Breitenbach & Choi 2017, pp. 391–393.
  5. 1 2 3 4 5 Ludwig & Ruphy 2021.
  6. ↑ Suppes 1978, p. 5.
  7. ↑ Suppes 1978, pp. 5–9.
  8. ↑ Harding 2015, pp. 115–116.
  9. 1 2 Harding 2015, pp. 116–117.
  10. 1 2 Cat 2017.
  11. ↑ Kellert, Longino & Waters 2006, pp. viii–ix.
  12. ↑ Veigl 2022, p. 1.
  13. ↑ Spagnesi 2022, p. 109.
  14. ↑ Cartwright 1999, p. 25.
  15. ↑ Kellert, Longino & Waters 2006, p. xxiii.
  16. ↑ Harding 2015, pp. 120–121.

引用文献

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  • Breitenbach, Angela; Choi, Yoon (2017-07). “Pluralism and the Unity of Science”. The Monist 100 (3): 391–405. doi:10.1093/monist/onx017. JSTOR 26370802. 
  • Cartwright, Nancy (1999). The Dappled World: A Study of the Boundaries of Science. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-64411-2 
  • Cat, Jordi (2017年8月16日). “The Unity of Science”. In Zalta, Edward N. (ed.). Stanford Encyclopedia of Philosophy (英語).
  • Fodor, J. A. (1974-10). “Special Sciences (Or: The Disunity of Science as a Working Hypothesis)”. Synthese 28 (2): 97–115. doi:10.1007/BF00485230. JSTOR 20114958. https://philarchive.org/rec/FODSSO. 
  • Harding, Sandra (2015). Objectivity and Diversity: Another Logic of Scientific Research. Chicago: The University of Chicago Press. ISBN 978-0-226-24153-1 
  • Kellert, Stephen H.; Longino, Helen E.; Waters, C. Kenneth, eds (2006). Scientific Pluralism. Minneapolis: University of Minnesota Press. ISBN 978-0-8166-4763-7 
  • Ludwig, David; Ruphy, Stéphanie (2021年11月3日). “Scientific Pluralism”. In Zalta, Edward N. (ed.). Stanford Encyclopedia of Philosophy (英語).
  • Ruphy, Stéphanie (2016). Scientific Pluralism Reconsidered: A New Approach to the (Dis)Unity of Science. Pittsburgh: University of Pittsburgh Press. ISBN 978-0-8229-4458-4 
  • Spagnesi, Lorenzo (2022). “Kant's Space of Theoretical Reason and Science: A Perspectival Reading”. In Caranti, Luigi; Pinzani, Alessandro. Kant and the Problem of Morality: Rethinking the Contemporary World. New York: Routledge Chapman & Hall. pp. 109–135. ISBN 978-0-367-90316-9 
  • Suppes, Patrick (1978). “The Plurality of Science”. PSA 1978: Proceedings of the 1978 Biennial Meeting of the Philosophy of Science Association: Symposia. Vol. 2. Philosophy of Science Association (published 1981). pp. 3–16. JSTOR 192459.
  • Veigl, Sophie Juliane (2022-06-02). “Scientific Pluralism in Practice: Responses to Anomaly in the Sciences”. Philosophy, Theory, and Practice in Biology 14 (14): 1–25. doi:10.3998/ptpbio.2896. 

関連文献

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  • Dupré, John (1993). The Disorder of Things: Metaphysical Foundations of the Disunity of Science. Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press. ISBN 978-0-674-21260-2 
  • Longino, Helen E. (1990). Science as Social Knowledge: Values and Objectivity in Scientific Inquiry. Princeton, New Jersey: Princeton University Press. ISBN 978-0-691-07342-2